原始反射とは?―赤ちゃんの自動的な反応が、成長とともに姿勢や動きへ組み込まれるまで
原始反射は、赤ちゃんの生存と初期発達を支える自動的な身体反応です。成長すると単純に消えてなくなるのではなく、随意運動、姿勢制御、バランス反応など、より成熟した身体の使い方の中へ組み込まれていきます。原始反射の役割、「統合」の意味、主要な反射、年齢が上がった子どもの日常との関係を分かりやすく解説します。
- 執筆
- スクエアクリニック

教室で、子どもが文字を書いています。
真剣に取り組んでいるのですが、しばらくすると机に身体を預け、頭を手で支え始めます。足を椅子へ乗せたり、何度も座り直したりすることもあります。
書いているうちに身体が傾き、首を動かすと腕や上半身まで一緒に動くように見えることもあります。
大人からは、
「姿勢を正す気がない」
「集中していない」
「落ち着きがない」
と見えるかもしれません。
しかし本人は、姿勢を保つために、無意識のうちに身体を調整し続けているのかもしれません。
外からは落ち着いていないように見えても、実際には誰よりも身体を使い、疲れていることがあります。
子どもの姿勢や動きの背景を考えるときに役立つ視点の一つが、原始反射です。
まずは、原始反射とは何かを見ていきましょう。
原始反射とは何か
原始反射とは、主に胎児期から乳児期にみられる、自分の意思とは関係なく起こる自動的な身体反応です。
赤ちゃんの口元へ触れると、触れた方向へ顔を向ける。手のひらへ指が触れると、握りしめる。身体のバランスが急に変わると、両腕を広げる。
このように、光、音、触覚、頭の向き、重力などの刺激に対して、ある程度決まった動きが起こります。
原始反射は異常なものではありません。
まだ自分の意思で自由に身体を動かせない赤ちゃんが、生き、食べ、周囲へ反応し、身体を動かす経験を重ねるための正常な仕組みです。
新生児や乳児の診察では、反射の有無だけでなく、左右差、強さ、現れる時期、筋緊張、姿勢、運動発達などを合わせて確認します。
なぜ赤ちゃんには原始反射があるのか
生まれたばかりの赤ちゃんは、大人のように「手を伸ばそう」「顔を横へ向けよう」と考えて、自由に身体を動かすことはできません。
意思による運動が育つ前の時期を、自動的な反応が支えています。
母乳やミルクを探して飲む
頬や口元へ触れると、その方向へ顔を向ける探索反射や、口の中へ入ったものを吸う吸啜反射は、授乳を始めるために重要です。
探索、吸啜、嚥下、呼吸が協調することで、赤ちゃんは栄養を取ることができます。
急な変化へ反応する
身体のバランスが急に変わったときなどに起こるモロー反射は、赤ちゃんが突然の変化へ反応する仕組みの一つです。
乳児期には、周囲の刺激へ身体全体で反応する姿が多くみられます。
姿勢や運動を経験する
頭の向きに応じて腕や脚の状態が変わる反射や、手のひらに触れたものを握る反射は、赤ちゃんが視線、触覚、頭の位置、手足の動きを経験する機会になります。
原始反射は、感覚と運動を結びつけ、重力のある環境で身体を使い始めるための、初期の感覚運動システムの一部です。
原始反射はなくなるのか
原始反射は、一般的には「生後数か月で消失する」と説明されます。
しかし、反射の仕組みが脳や身体から完全に削除されるわけではありません。
成長すると、赤ちゃんは頭や体幹を支え、左右の手足を別々に動かし、姿勢を崩したときに立て直せるようになります。
そして、刺激が入るたびに身体全体が決まったパターンで動く状態から、目的に合わせて姿勢や動きを調整できる状態へ変化していきます。
原始反射が前面へ出にくくなり、随意運動、姿勢反応、バランス反応など、より成熟した身体の使い方へ組み込まれていく過程を、一般に「統合」と表現します。
医学的な文献では、「統合」のほかに「抑制される」「前面に出にくくなる」「随意運動へ置き換わる」「消失する」といった表現も使われます。
赤ちゃんにみられる主な原始反射
モロー反射
身体のバランスが急に変わったときや、強い刺激が加わったときに、両腕を大きく広げ、その後、抱きつくように腕を戻す反応です。
赤ちゃんが突然の変化へ反応する仕組みの一つで、成長とともに前面へ出にくくなります。
年齢が上がっても刺激への身体全体の反応が強い場合には、音、光、接触、姿勢変化などに驚きやすい姿として見えることがあります。
非対称性緊張性頸反射・ATNR
仰向けの赤ちゃんが頭を一方へ向けると、顔を向けた側の腕や脚が伸び、反対側が曲がりやすくなる反応です。
フェンシングをしているような姿勢に見えることがあります。
乳児期には、頭の向き、視線、腕や手の位置を結びつける経験に関係します。
年齢が上がっても頭の向きに腕や身体が影響されやすい場合には、黒板とノートを交互に見ると姿勢が崩れる、紙を押さえながら書きにくい、身体の左右をまたぐ動きが苦手といった姿として見えることがあります。
対称性緊張性頸反射・STNR
頭を下へ曲げると腕が曲がり、脚が伸びやすくなる。頭を上へ反らすと腕が伸び、脚が曲がりやすくなる反応です。
主に四つ這いへ移行する時期に目立ち、上半身と下半身を別々に使う発達過程に関係します。
年齢が上がっても頭の動きに腕や脚が影響されやすい場合には、椅子に座ると身体が丸まる、足を椅子へ乗せる、授業の後半になると姿勢が崩れるといった姿として見えることがあります。
緊張性迷路反射・TLR
頭の位置や重力方向によって、身体全体の曲がりやすさや伸びやすさが変化する反応です。
乳児期には、重力のある環境で頭、体幹、手足の姿勢を調整していく過程に関係します。
年齢が上がっても頭の位置に全身の緊張が影響されやすい場合には、姿勢を保ちにくい、身体を起こしていると疲れる、バランスを取りにくいといった姿として見えることがあります。
手掌把握反射
赤ちゃんの手のひらへ刺激が加わると、指を曲げて握りしめる反応です。
成長すると、自分の意思で手を開き、必要な強さで物を持ち、離せるようになります。
年齢が上がっても手のひらへの刺激で力が入りやすい場合には、鉛筆を強く握る、書くと手が疲れる、ハサミや箸を使うと全身へ力が入るといった姿として見えることがあります。
探索反射
赤ちゃんの頬や口角へ触れると、刺激された方向へ顔を向け、口を開く反応です。
乳房や哺乳瓶を探し、授乳を始めるために必要です。
年齢が上がっても口周囲への反応が強い場合には、顔を拭かれることや歯磨きを嫌がる、特定の食感を強く嫌がるといった姿として見えることがあります。
吸啜反射
口唇、口腔内、舌などへ刺激が加わると、リズミカルに吸う運動が起こる反応です。
探索反射、嚥下、呼吸と協調し、母乳やミルクを飲むことを支えます。
成長すると、目的に合わせて唇、舌、顎を動かせるようになります。年齢が上がったときには、噛む、飲み込む、話すといった口の動きとの関係として見えることがあります。
原始反射の残存とは何か
本来は成長とともに前面へ出にくくなる自動的な反応が、特定の姿勢や刺激によって、年齢に比べて強く表れやすい状態を「原始反射の残存」と表現することがあります。
残存は「ある」「ない」の二択とは限りません。
検査するとわずかに表れる、疲れたときに表れやすい、特定の姿勢で表れる、左右のどちらかで強いなど、現れ方には幅があります。
学童期の原始反射評価は検査方法にばらつきがあるため、現在は診断基準の確立に向けた動きが見られています。
日常生活ではどのように見えるのか
原始反射は、日常生活の中で分かりやすい反射運動として見えるとは限りません。
子どもが姿勢を変えたり、別の動きで補ったりするため、
・姿勢が崩れやすい
・座っているだけで疲れる
・頭を動かすと腕や身体も一緒に動く
・書字や板書が難しい
・身体の左右をまたぐ動きが苦手
・音や光などの刺激に驚きやすい
・バランスを取りにくい
・鉛筆を強く握る
・食感や口周囲への刺激を嫌がる
といった姿として見えることがあります。
姿勢や動きが崩れて見えるとき、本人は自分なりの方法で身体を安定させようとしているのかもしれません。
原始反射が残っていたら発達障害なのか
原始反射に似た反応がみられるだけで、発達障害と診断されるわけではありません。
健康な就学前児や学童でも、検査によって原始反射様の反応が部分的にみられることがあります。
一方で、反応が強い子どもほど、運動、バランス、手先の動き、読み書きなどに難しさがみられたという研究もあります。
現在分かっているのは、原始反射様の反応と、姿勢、運動、感覚、学習などとの間に、関連がみられる場合があるということです。
原始反射は、子どもの身体を理解する一つの視点
姿勢を保てないように見える子どもが、実は身体を支えるために大きな努力を続けていることがあります。
字を書く、黒板を見る、椅子に座る、音を聞く、身体の左右を使う。
大人にとっては自然にできる動きでも、子どもによっては、複数の感覚や運動を同時に調整しなければならない、負担の大きな作業です。
原始反射という視点は、
「なぜきちんと座れないのか」
と子どもを評価するためではなく、
「この子は、身体のどこで頑張っているのだろう」
と考えるために役立つことがあります。
子どもの発達や日常の困りごとには、年齢、身体の使い方、感覚、視覚、聴覚、睡眠、環境など、さまざまな要因が関係します。
原始反射は、子どもを理解する一つの視点であり、原始反射だけで判断することはできません。
大切なのは、一つの姿から原因を決めるのではなく、その子の日常全体を見ることです。
次回以降の記事について
今回は、原始反射の基本と、「統合」「残存」という言葉の意味を紹介しました。
今後は、
・モロー反射と、音や突然の刺激への驚きやすさ
・ATNRと、書字や板書
・STNRと、椅子に座る姿勢
・TLRと、重力やバランス
・手掌把握反射と、鉛筆の握り方
・口に関係する反射と、食べる・話す動き
などを、一つずつ取り上げます。
原始反射を子どもへラベルをつけるためではなく、身体の使い方をやさしく理解する入口として考えていきます。
医療・健康情報について
この記事は、子どもの発達や身体の使い方に関する一般的な情報を提供するものです。
姿勢、運動、食事、発音、感覚、学習について強い困りごとがある場合や、以前できていた動きが急にできなくなった場合には、症状に応じた医療機関へご相談ください。
参考文献
- Zafeiriou DI. Primitive reflexes and postural reactions in the neurodevelopmental examination. ↗Pediatric Neurology. 2004;31(1):1–8. doi:10.1016/j.pediatrneurol.2004.01.012
- Futagi Y, Toribe Y, Suzuki Y. The Grasp Reflex and Moro Reflex in Infants: Hierarchy of Primitive Reflex Responses. ↗International Journal of Pediatrics. 2012;2012:191562. doi:10.1155/2012/191562
- Blasco PA. Primitive reflexes. Their contribution to the early detection of cerebral palsy. ↗Clinical Pediatrics. 1994;33(7):388–397. doi:10.1177/000992289403300703
- Modrell AK, Tadi P. Primitive Reflexes. ↗StatPearls Publishing. NCBI Bookshelf: NBK554606.
- Pattnaik P, Al Khalili Y. Moro Reflex. ↗StatPearls Publishing. NCBI Bookshelf: NBK542173.
- Chamarthi VS, Yoo H. Rooting Reflex. ↗StatPearls Publishing. NCBI Bookshelf: NBK557636.
- Coryell J, Cardinali N. The asymmetrical tonic neck reflex in normal full-term infants. ↗Physical Therapy. 1979;59(6):747–753.
- Coryell J, Henderson A. Role of the asymmetrical tonic neck reflex in hand visualization in normal infants. ↗American Journal of Occupational Therapy. 1979;33(4):255–260.
- Gieysztor EZ, Choińska AM, Paprocka-Borowicz M. Persistence of primitive reflexes and associated motor problems in healthy preschool children. ↗Archives of Medical Science. 2018;14(1):167–173. doi:10.5114/aoms.2016.60503
- Pecuch A, Gieysztor E, Telenga M, Wolańska E, Kowal M, Paprocka-Borowicz M. Primitive Reflex Activity in Relation to Motor Skills in Healthy Preschool Children. ↗Brain Sciences. 2021;11(8):967. doi:10.3390/brainsci11080967
- Pecuch A, Gieysztor E, Wolańska E, et al. Primitive Reflex Activity in Relation to the Sensory Profile in Healthy Preschool Children. ↗International Journal of Environmental Research and Public Health. 2020;17(21):8210. doi:10.3390/ijerph17218210
- McWhirter K, Steel A, Adams J. The association between learning disorders, motor function, and primitive reflexes in pre-school children: A systematic review. ↗Journal of Child Health Care. 2024;28(2):402–428.
- McPhillips M, Hepper PG, Mulhern G. Effects of replicating primary-reflex movements on specific reading difficulties in children: a randomised, double-blind, controlled trial. ↗The Lancet. 2000;355(9203):537–541. doi:10.1016/S0140-6736(99)02179-0
- Wang M, Yu J, Li H, Zhao C, Li Y, Yang X. Development of the children's primitive reflex integration assessment scale. ↗Frontiers in Psychology. 2025;16:1495990.
