SNPsって何?―「それぞれの種」から、子どもの個性と身体の違いを考える
同じ食事、睡眠、学習方法、運動、刺激であっても、子どもの身体や脳の反応は一人ひとり異なります。SNPsとは、人と人との間にみられるDNA配列の小さな違いです。この記事では、SNPsを病気や将来を決めるものではなく、その子がどのような環境で力を発揮しやすいのかを考える手がかりとして、初めての方にも分かりやすく説明します。
- 執筆
- スクエアクリニック

同じ時間に寝ているのに、朝すぐに起きられる子と、なかなか目が覚めない子がいます。
同じ給食を食べても、午後まで元気に過ごせる子もいれば、強く疲れてしまう子もいます。
同じ教室の音を聞いていても、ほとんど気にならない子と、いくつもの音が重なると集中できなくなる子がいます。
同じ練習をしても、すぐに身につく動きがある一方で、何度繰り返しても難しい動きがあります。
大人は、ときどき思います。
「同じようにしているのに、なぜこの子だけ違うのだろう」
けれども、子どもはみんな、まったく同じ身体のつくりや働きを持って生まれてくるわけではありません。
身体の中には、人と人との違いを生み出す、たくさんの小さな個人差があります。
その一つが、SNPs(スニップス)です。
SNPsは、子どもの病気や能力、性格、将来を決めるものではありません。
その子が、食事、睡眠、運動、音、光、ストレスなどを、どのように受け取りやすいのかを考えるための、数ある手がかりの一つです。
---
それぞれの種は、同じ育て方では育たない
同じ庭に、違う種類の種を植えたとします。
たくさんの水を必要とする種もあれば、水が多すぎると根が弱ってしまう種もあります。
強い日差しを好む種もあれば、少し日陰の方がよく育つ種もあります。
芽を出す早さも、花が咲く時期も、葉の形も、実のつき方も違います。
どれか一つが優れていて、ほかが劣っているということではありません。
それぞれに合う水、光、土、温度が違うのです。
子どもも同じです。
同じ食事、同じ睡眠時間、同じ学習方法、同じ声かけを用意しても、身体や脳の反応は一人ひとり異なります。
一つの方法が多くの子に合ったとしても、すべての子に同じように合うとは限りません。
SNPsを知ることは、子どもを分類するためではありません。
「この種には、どのような水や光や土が合うのだろう」
と考えるための、一つの手がかりです。
---
DNAと遺伝子とは?
私たちの身体は、たくさんの細胞からできています。
その細胞の多くには、DNAと呼ばれる物質が入っています。
DNAは、身体をつくり、働かせていくための情報が書かれた、長い説明書のようなものです。
料理にたとえるなら、非常に多くのレシピが集められた本ともいえます。
ただし、DNAは、完成した身体を細部まで固定した図面ではありません。
同じレシピがあっても、材料の状態、温度、調理時間、周囲の環境によって仕上がりが変わるように、DNAに書かれた情報も、成長や生活環境との関わりの中で使われます。
遺伝子は、その長いDNAの中にある、身体の働きに関係する情報のまとまりです。
遺伝子には、身体の中で働くタンパク質などをつくるための情報や、ほかの遺伝子の働きを調整する情報が含まれています。
例えば、身体の中では、遺伝子の情報を使いながら、
- 食べ物から得た栄養を利用する
- エネルギーをつくる
- 炎症反応を調整する
- 神経からの情報を受け取る
- 必要な物質を細胞へ運ぶ
といった働きが行われています。
---
SNPsとは?
SNPは、英語の
Single Nucleotide Polymorphism
の頭文字をとった言葉です。
日本語では、一塩基多型と呼ばれます。
DNAは、A、T、G、Cという4種類の文字の組み合わせで書かれています。
とても長い文章の中で、ある人はAという文字を持ち、別の人は同じ場所にGという文字を持っていることがあります。
このような、DNAの一か所にみられる一文字の違いがSNPです。
SNPは一般に、DNAの一つの塩基位置にみられるゲノム上の違いと説明されます。
世界中のさまざまな研究で、SNPは人の健康、病気、薬への反応、さまざまな特徴との関係を調べるために用いられています。
ただし、一つの塩基の違いがあるからといって、必ず身体の働きが変わるわけではありません。
多くのSNPは、目立った影響を起こさないと考えられています。
身体の働きとの関連が見つかっているSNPでも、その影響は多くの場合小さく、一つのSNPだけで症状、性格、能力が決まることはありません。
---
SNPsは、病気を決めるものではない
「DNAに違いがある」と聞くと、
「病気の遺伝子があるのではないか」
と不安になるかもしれません。
しかし、一般的なSNPと、単一遺伝子疾患などの原因となる病的バリアントは、同じものとして扱うことはできません。
SNPは、多くの人の間にみられる、小さなDNA配列の違いです。
一方、病気に関係する遺伝子の変化は、臨床情報、家族情報、集団での頻度、機能研究など、複数の情報を組み合わせて慎重に判断されます。
そのため、検査結果に一つのSNPが書かれているだけでは、
「この病気になる」
「この症状の原因である」
と判断することはできません。
病気との関連が報告されたSNPであっても、それは発症を確定するものではなく、数多くある要因の一つを示している場合があります。
---
同じ環境でも、身体の反応が違う
人による反応の違いは、日常のさまざまな場面でみられます。
例えば、カフェインを飲んでも眠れる人がいる一方、少量でも夜まで目がさえてしまう人がいます。
同じ運動をしても、翌日まで疲れが残りやすい人と、比較的早く回復する人がいます。
同じ音や光でも、刺激を強く感じる人と、ほとんど気にならない人がいます。
同じ食事をしても、栄養素を利用する過程や代謝の速さには個人差があります。
同じ薬を同じ量使っても、効き方や副作用の現れ方が違うことがあります。
遺伝的な違いは、こうした反応差に関係する可能性があります。
実際に、遺伝的な特徴は、感染症への反応、薬や治療への反応、生活習慣に伴う健康への影響などに関係することがあります。
ただし、これらの違いがすべてSNPsだけで説明できるわけではありません。
体調、年齢、睡眠、食事、過去の経験、ストレス、感染、服用中の薬、成長段階なども影響します。
---
遺伝子だけで決まるわけではない
子どもの身体や行動の特徴は、遺伝子と環境のどちらか一方だけでつくられるものではありません。
多くの人の特徴や健康状態には、複数の遺伝的な要因が関わります。
さらに、
- 食事
- 睡眠
- 運動
- 光
- 音
- ストレス
- 感染
- 人との関わり
- 成長段階
- 学校や家庭の環境
などが、互いに影響し合います。
複数の遺伝子が関係する特徴は「多遺伝子性」と呼ばれ、その多くは環境の影響も受けます。
遺伝子と環境の相互作用は、人の特徴や健康状態を形づくる重要な要素です。
そのため、同じSNPを持つ人が、同じ症状を示すとは限りません。
あるSNPを持っていても、生活環境やほかの遺伝的要因によって、身体への影響がほとんど現れないこともあります。
反対に、同じような症状があっても、その背景にある理由は一人ひとり異なる場合があります。
---
SNPsを知ると、何が変わる?
SNPsから分かるのは、確定した未来ではなく、可能性や傾向です。
研究では、SNPsと次のような働きとの関連が調べられています。
- 特定の栄養素を利用する過程
- 酸化ストレスへの対処
- 炎症反応の調整
- 神経伝達物質の代謝
- エネルギー産生
- 薬の代謝速度
- 刺激やストレスへの反応
ただし、SNPsを知ることの本当の意味は、検査結果の文字を一つずつ見て、子どもの特徴を決めつけることではありません。
大切なのは、実際の子どもの様子と照らし合わせることです。
睡眠はどうか。
食事の後に体調が変わるか。
どのような音や光が負担になるか。
運動の後にどのくらい疲れが残るか。
どのような環境なら集中しやすいか。
SNPsの情報は、こうした観察や、診察、生活歴、検査結果を置き換えるものではありません。
SNPsを知ることは、子どもの未来を決めることではありません。その子が、どのような環境で力を発揮しやすいのかを考えるための手がかりです。
---
SNPsだけでは分からないこと
SNPsだけでは、次のことは分かりません。
- 性格
- 知能
- 将来の職業
- 病気になるかどうか
- 今の症状の原因
- 必要な治療
- 才能の有無
- 努力できるかどうか
- 子育てや教育の正解
また、ある集団で見つかったSNPとの関係が、別の集団でも同じように当てはまるとは限りません。
遺伝に関する研究結果は、対象となる人の集団、祖先背景、生活環境、年齢、評価方法などによって変わることがあります。
そのため、
「この子はこういう子だ」
「この遺伝子があるから無理だ」
「将来この病気になる」
と決めつけることはできません。
子どもは、検査結果だけでは分からない、とても複雑で変化し続ける存在です。
---
「その子らしい最高の実」を育てるために
種の特徴を知ることは、将来できる実の形を決めつけることではありません。
その種に合う水や光、土を探すことです。
子どもが周囲と違う反応を示したとき、すぐに努力不足や性格の問題と考えるのではなく、
「この子の身体には、どのような理由があるのだろう」
「今の環境や方法は、この子に合っているだろうか」
と立ち止まって考えることができます。
SNPsは、そのための一つの視点です。
遺伝子は、運命ではありません。
環境だけが、すべてを決めるわけでもありません。
子どもが生まれ持った特徴と、これまでの経験、今の身体の状態、周囲の環境が重なり合いながら、その子らしい成長がつくられていきます。
同じ方法を続けて子どもを変えようとする前に、まず、反応の仕方は一人ひとり違うことに気づく。
そこから、その子に合う育ち方を探すことが始まります。
それぞれの種が、その子らしい最高の実をつけるために。
SNPsを、子どもを分類するラベルではなく、理解を深めるための手がかりとして考えていきます。
---
この先、さらに考えていきたいこと
SNPsと栄養、炎症、エネルギー産生、薬への反応など、子どもの身体との関わりについて、今後も一つずつ分かりやすく紹介していきます。
大切なのは、遺伝情報で子どもを決めつけるのではなく、その子に合う環境を考えるために役立てることです。
---
医療・健康情報について
この記事は、SNPsや遺伝情報に関する一般的な情報を提供するものです。
個別の検査結果の解釈、病気の診断、治療、薬やサプリメントの選択を行うものではありません。
症状や遺伝性疾患について心配がある場合は、医師や遺伝医療の専門家へご相談ください。
参考文献
- National Human Genome Research Institute. Single Nucleotide Polymorphisms (SNPs). ↗Talking Glossary of Genomic and Genetic Terms.
- National Human Genome Research Institute. Human Genomic Variation. ↗NHGRI Fact Sheet. 2023.
- National Human Genome Research Institute. Polymorphism. ↗Talking Glossary of Genomic and Genetic Terms.
- National Library of Medicine. What is DNA? ↗MedlinePlus Genetics.
- National Library of Medicine. What is a gene? ↗MedlinePlus Genetics.
- National Library of Medicine. How do genes direct the production of proteins? ↗MedlinePlus Genetics.
- National Library of Medicine. What is noncoding DNA? ↗MedlinePlus Genetics.
- National Human Genome Research Institute. Polygenic Trait. ↗Talking Glossary of Genomic and Genetic Terms.
- National Human Genome Research Institute. Gene Environment Interaction. ↗Talking Glossary of Genomic and Genetic Terms.
- National Human Genome Research Institute. Genetic Analysis Tools Help Define Nature and Nurture in Complex Disorders. ↗
- Centers for Disease Control and Prevention. Genetics Basics:Genomics and Your Health. ↗
- National Human Genome Research Institute. Use of Population Descriptors in Genomics. ↗
- Richards S, Aziz N, Bale S, et al. Standards and guidelines for the interpretation of sequence variants. ↗Genetics in Medicine. 2015;17(5):405-424. doi:10.1038/gim.2015.30
- Clinical Genome Resource. ClinGen General Sequence Variant Curation Process. ↗
- Clinical Genome Resource. Variant Pathogenicity Curation. ↗
- Bentley AR, Callier S, Rotimi CN. Diversity and inclusion in genomic research:why the uneven progress? ↗Journal of Community Genetics. 2017;8:255-266. doi:10.1007/s12687-017-0316-6