朝起きられないのは、夜の部屋が明るすぎるから?―子どものメラトニンと光の話
朝、何度声をかけても起きられない子ども。布団へ入る時刻だけでなく、寝る前の部屋の明るさが関係していることがあります。夜のLED照明や画面の光がメラトニンと体内時計へ与える影響を解説し、家庭で始められる「就寝1時間前の夜モード」を紹介します。
- 執筆
- スクエアクリニック

朝7時。
「もう起きる時間だよ」
「学校に遅れるよ」
何度声をかけても、子どもがなかなか起きてきません。
前の晩は、いつもより早めに布団へ入ったはずです。それなのに、朝になると強い眠気が残り、起きようとしても身体が動かないように見えます。
家族は焦り、
「早く寝たのに、どうして起きられないの?」
「もっとしっかりしなさい」
と言いたくなるかもしれません。
けれど、子ども本人も困っています。
眠ろうとしても眠気が来ない。朝は目を開けようとしても身体が動かない。遅刻や欠席が増え、毎朝叱られる。
本人にも、なぜ眠れず、なぜ起きられないのか分からないことがあります。
そんなときは、布団へ入った時刻だけでなく、眠る前の1時間を、どのような明るさの中で過ごしていたかを振り返ってみてください。
朝起きられない背景の一つに、夜の光によって、身体が眠りに入る準備を十分に始められていない可能性があります。
朝起きられない理由は、一つではありません
子どもが朝起きられない理由には、さまざまなものがあります。
睡眠時間の不足、睡眠時無呼吸、むずむず脚、起立性調節障害、痛み、不安、神経発達特性、薬の影響などが関係していることがあります。
睡眠だけでなく、食事、不安、頻尿、チック、感覚、学習などが急に同じ時期に変化している場合には、別の神経学的・免疫学的な変化についても検討が必要です。
この記事では、これらの原因をすべて説明するのではなく、その中から家庭で見直しやすい一つの条件である、
夜の部屋の明るさや、スマートフォン、タブレットなどの人工光
に焦点を当てます。
夜の光だけで、すべての起床困難を説明できるわけではありません。
それでも、寝る直前まで明るい環境で過ごすことが、入眠を遅らせ、翌朝の起きにくさにつながっている子どもはいると考えられます。
暗さは、身体に「夜になった」と知らせる情報です
私たちは、時計を見て夜になったことを理解します。
一方、身体の中にある体内時計は、目から入る光の情報を使って、昼と夜を判断しています。
夕方から夜にかけて周囲が暗くなると、身体ではメラトニンというホルモンの分泌が高まります。
メラトニンは、身体を強制的に眠らせる睡眠薬のようなものではありません。
身体に、
「暗くなりました」
「身体の夜が始まります」
「そろそろ眠る準備をしましょう」
と知らせる合図に関係するホルモンです。
ところが、夜になっても目に明るい光が入り続けると、メラトニンの分泌が抑えられたり、分泌が始まる時刻や体内時計の切り替えが遅れたりする可能性があります。
就学前の子どもを対象とした実験では、就寝前の光によってメラトニンが大きく抑制され、光を消した後もしばらく低い状態が続く子どもがみられました。
ただし、実験でみられた反応の程度には、大きな個人差があります。
時計では夜9時でも、身体はまだ、
「もう少し昼が続いている」
と判断していることがあるのです。
その状態で布団へ入っても、すぐに眠気が来るとは限りません。
布団へ入った時刻が早くても、実際に眠り始める時刻が遅くなれば、朝までに確保できる睡眠時間は短くなります。
その結果、翌朝に強い眠気が残り、何度声をかけても起きられないことがあります。
子どもは、夜の光に影響されやすい場合があります
「この程度の明るさなら、大人は普通に眠れる」
そう感じる部屋でも、子どもの身体には明るすぎる場合があります。
子どもと成人を比較した小規模な研究では、子どもの方が、夜間の光によるメラトニン抑制が大きくなる傾向が報告されています。
また、思春期の早い段階にある子どもでは、年長の思春期児や成人より、夕方から夜の光に体内時計が影響されやすい可能性も示されています。
もちろん、すべての子どもが同じように反応するわけではありません。
年齢、発達段階、もともとの体内時計、日中に浴びた光、夜の光の明るさや時間などによって、影響は異なります。
それでも、大人の感覚だけで、
「これくらいなら暗い方でしょう」
「私はテレビを見ながらでも眠れるから大丈夫」
と判断しない視点は大切です。
問題になるのは、スマートフォンだけではありません
夜の光というと、スマートフォンのブルーライトを思い浮かべる人が多いかもしれません。
けれど、子どもの目に入る光は、スマートフォンだけではありません。
例えば、次のようなものがあります。
- リビングの白く明るい天井照明
- 学習机の白いLEDライト
- テレビ
- タブレット
- スマートフォン
- ゲーム機
- 寝室の常夜灯
- 時計や充電器などの表示灯
特に、青色成分を多く含む白っぽいLED照明は、暖色寄りの照明よりも、子どものメラトニンを強く抑え、夜の眠気の高まりを妨げる可能性があります。
ただし、これは「青い光だけを避ければよい」という意味ではありません。
暖色の光でも、明るすぎれば、身体に夜を伝えにくくなる可能性があります。
大切なのは、光の色だけでなく、目に入る光の量を減らすことです。
画面には、光以外の影響もあります
スマートフォンやタブレットの使用が睡眠へ影響する理由は、画面から出る光だけではありません。
動画やゲームを見て頭が冴える、友人とのやり取りが続く、次の動画を見たくなって就寝時刻が遅れるなど、複数の要素が重なります。
子どもや思春期の画面利用について調べた研究では、画面を見る時間が長いことや、寝る直前まで使うことは、就寝時刻の遅れや睡眠時間の短縮と関連しています。
この記事では、スマートフォン依存や動画の内容について詳しく扱いません。
まずはスマートフォンやタブレットも、天井照明やテレビと同じように、就寝前に目へ入る光の一つとして考えてみましょう。
布団へ入る前の1時間を見てみましょう
夜9時に寝る子どもの生活を考えてみます。
夜8時半まで白い天井照明の下で宿題をし、その後タブレットで動画を見ます。
夜8時55分に画面を消して、明るい洗面所で歯を磨き、夜9時に寝室へ入ります。
時計だけを見れば、夜9時に布団へ入れています。
けれど、子どもの目には、寝る直前まで明るい光が入っています。
身体にとっては、夜9時になって初めて暗くなった状態です。
そこから身体が眠る準備を始めるのであれば、布団へ入っても、すぐに眠気が来ないことがあります。
そのため、睡眠を考えるときには、
何時に布団へ入ったか
だけでなく、
布団へ入る前の1時間を、どのような明るさの中で過ごしたか
を見る必要があります。
睡眠中の脳でも、さまざまな維持活動が行われています
睡眠中には、脳脊髄液と脳の細胞の間にある液体の動きが変化し、脳内で生じた物質の移動や排出に関係する可能性が研究されています。この仕組みはグリンパティックシステムと呼ばれています。
ただし、人、特に子どもでの働きには未解明な部分があります。夜の照明を暗くすれば、この仕組みが直接改善するという意味ではなく、子どもの朝の起床困難に対する確立した治療機序でもありません。
今日からできることは、一つです
就寝1時間前から、家を「夜モード」にする
朝起きられない子どもに対して、この記事で提案することは一つだけです。
就寝予定時刻の1時間前を目安に、家全体を夜モードへ切り替えます。
夜9時に寝る予定であれば、夜8時から始めます。
夜8時になったら、白く明るい天井照明を消します。
テレビ、スマートフォン、タブレット、ゲーム機を終えます。
部屋は、暖色で暗めの照明へ切り替えます。
着替え、歯磨き、読み聞かせ、静かな会話など、眠るための準備を始めます。
夜9時になったら、安全を確保したうえで寝室をできるだけ暗くします。
「1時間」は、すべての子どもにとって医学的に唯一正しい時間という意味ではありません。
家庭で覚えやすく、始めやすい目安です。
まずは1時間から試し、実際に眠気が来る時刻、布団へ入ってから眠るまでの時間、翌朝の様子を見てください。
夜9時に寝る子どもの「夜モード」
夜8時まで
宿題、翌日の準備、入浴など、明るさが必要な活動をなるべく終えます。
夜8時
家の夜モードを開始します。
白い天井照明を消し、テレビ、タブレット、スマートフォン、ゲーム機を終了します。
夜8時から9時
暖色で暗めの照明の中で、歯磨き、着替え、読み聞かせなどを行います。
夜の過ごし方を毎日ほぼ同じ順番にすると、子どもにとっても、
「これから眠る時間になる」
という分かりやすい合図になります。
夜9時
寝室を暗くして就寝します。
夜間にトイレへ行く必要がある場合や、暗闇を強く怖がる場合には、安全を優先してください。
転倒を防ぐため、必要に応じて暗めの足元灯を使用します。光が子どもの顔へ直接入らない位置に置くとよいでしょう。
完全な暗闇を無理に強いる必要はありません。
家族みんなで夜モードにする
子どもだけに、
「スマートフォンをやめなさい」
「早く寝なさい」
と言っても、リビングのテレビや天井照明が明るいままでは、夜の環境は変わりません。
また、大人が隣でスマートフォンを見ていると、子どもだけ画面を終えることが難しい場合があります。
夜モードは、子ども一人に守らせる規則ではなく、家全体の環境を切り替える時間と考えます。
「あなたが朝起きられないから消す」のではなく、
「もうすぐ眠る時間だから、家を夜にしよう」
と家族全体で取り組む方が、子どもを責めずに続けやすくなります。
それでも朝起きられないとき
朝起きられない理由は、夜の光だけではありません。
次のような様子がある場合は、部屋を暗くした効果を長期間待つだけでなく、小児科や睡眠を扱う医療機関などへ相談してください。
- 大きないびきや、睡眠中の呼吸停止がある
- 朝の強い頭痛や嘔吐が続く
- 日中に眠り込んでしまうほどの強い眠気がある
- 立ち上がると強いめまい、動悸、失神がある
- 睡眠中の異常行動やけいれんが疑われる
- 生活や学校への支障が強い
- 光環境を整えても改善せず、起床困難が長く続く
また、睡眠だけでなく、食べられる物が急に減った、不安や確認行動が強くなった、頻尿や夜尿が始まった、チックが出た、字や学習の状態が急に変わったなど、複数の変化が同じ時期に重なった場合には、単なる夜更かしだけで説明しないことが大切です。
まとめ
朝起きられない子どもを見て、
「明日の朝は、もっと頑張って起きよう」
と考えるだけでは、解決しないことがあります。
朝の起きにくさは、前の晩から始まっているかもしれません。
布団へ入った時刻だけでなく、その前の1時間に、子どもの目へどのくらい光が入っていたかを見てみましょう。
白く明るい天井照明、テレビ、タブレット、スマートフォン。
それらの光によって、身体へ届く「夜になった」という合図が弱くなり、眠りへの切り替えが遅れている可能性があります。
夜の光を変えれば、すべての起床困難が解決するわけではありません。
それでも、光は家庭で今日から変えられる一つの条件です。
朝起きられない子どもに、明日の朝もっと頑張らせるのではなく、今夜は寝る1時間前から部屋を暗くして、身体へ「夜になったよ」と伝えてみましょう。
参考文献
- Hartstein LE, et al. High sensitivity of melatonin suppression response to evening light in preschool-aged children. ↗Journal of Pineal Research. 2022.
- Hartstein LE, et al. Evening Light Intensity and Phase Delay of the Circadian Clock in Early Childhood. ↗Journal of Biological Rhythms. 2023.
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